ライトノベル受賞作品

「青の病室」
病室の窓から見上げた空は、青。入道雲の白と向日葵の黄。中学三年生の夏から二年間、私はここに入院している。パパもママもよくお見舞いに来てくれるー、友達もいる。寂しさを感じたことはない。今日はパパもママも仕事で会いには来られないから、友達の所にいこうかな。
 冷たい廊下を裸足で歩く。友達の病室は三○四号室。私の病室、二○五号室からは階段を上がってすぐだ。病室のドアをノックするとすぐに、明るい声が返ってくる。
「にこちゃんね、入って。」
 にこちゃん。これは私のあだ名だ。西萌花子の苗字の最初と名前の最後をとって「にこ。」花子という名前は少し古くさくて好きじゃなかったからにこちゃんと呼ばれることはうれしい。
「茜ちゃん、おはよう。」
 茜ちゃんは同い歳の女の子、神鳴茜ちゃん。肌は真っ白で黒は真っ黒。瞳は名前のとおり夕に染まったような茜色。その目がくっきり大きくてまつ毛は長くて、すごくかわいい。
「今日は天気がいいね、向日葵もきれい。」
「そうね、でも少し暑いわ。」
 確かに。三階一・二階に比べて暑い。クーラーがないのかな?
「でも私、三階が好きだなぁ……。二階よりもずっと静かだし、茜ちゃんがいるから。」
「ふふふっ、うれしいわ、ありがとう。」
 茜ちゃんが、にっこりと笑った。
 それから、私達は日が暮れるまで、いつものように最近呼んだ本の話や面白い看護師さんの話をした。
「そろそろ晩御飯だから一回戻るね、ごはん食べてお風呂入ったらまた来るから。」
「ごめんなさい……。私からはにこちゃんのお部屋に行けなくて……。」
 茜ちゃんは自分の途切れた足を見た。茜ちゃんは右足の太ももから下がない。華奢で力の弱い茜ちゃんには自力で車イスに乗ることも難しい。
「全然いいよ!私、三階好きって言ったでしょ。」
 私がそう言うと茜ちゃんは静かに笑った。
 その日も、いつものように消灯時間ギリギリまで茜ちゃんの部屋にいた。
 次の日もずっと茜ちゃんの部屋にいた。太陽が一番高く昇った頃だった。
「西萌さん!探したんですよ、検診の時間でしょう!」
 看護師のサワグチさんだ。サワグチさんは少しオバサンでツリ目でちょっとこわい。
「はぁい」
 私は気の抜けた返事をして茜ちゃんに「ごめんね。」と言って部屋を出た。
 廊下を歩いているとき、サワグチさんが話しだした。
「明日から新しい看護師さんが来まよ、小國さんという女の人です。新人さんですから迷惑かけてはいけませんよ。」
「はい、サワグチさん。」
 翌日、あいさつにきてくれたオグニさんを連れて茜ちゃんの部屋に行った。
 「オグニさん、この子は神鳴茜ちゃん。なんか、二階と比べて三階って静かなんだよね、オグニさんもたまに一緒に茜ちゃんと話そうね。」
 私が急に連れまわしにからかオグニさんは控えめに「はい……。」と頷いた。
 オグニさんと一緒に私の部屋に戻るとパパとママが来ていた。
「パパ、ママ来てたんだ!。」
 私は二人に抱きつく。パパとママの話をしようとしたのにオグニさんあ仕事があると言っていなくなってしまった。

ー××精神病ナースステーションー
「あのぅ、二○五号室の花子ちゃんって……。」
 小國が今にも泣きそうな声を出した。
「誰もいないはずの三階で、誰もいない三○四号室で何かと話してるー……。ゾウとキリンのぬいぐるみを『パパ、ママ』って呼ぶんです……。」
 肩を震わせる小國を澤口がなだめる。
「西萌さんのご両親は事故で亡くなっています。神鳴茜は以前入院していた患者でした。去年自殺してしまいましたが……。」

 今日も私は三○四号室に足を運ぶ。今日はすごく暑い。ノックをして室内に入る。逆光で茜ちゃんの顔が見えない。
 空は青。
 入道雲の白。
 向日葵の黄。
 彼女の瞳の茜。
 その強烈なコントラストに脳が痺れる。
「おはよう、茜ちゃん。」
 今日も彼女はここにいる。
 明日も明後日も。
 来年も、ずっと永遠にー。